スキルシェアを通して見つけた定年後の生きがい。包丁研ぎ講師【豊住久先生】
大手外食産業に30年間勤務し、包丁の研ぎ方などを従業員に指導していた豊住先生。定年後に偶然出会ったストアカをきっかけに、東京・巣鴨のご自宅で行う「包丁研ぎ講座」には北は北海道から南は沖縄まで多くの生徒が訪れ、9年間で受講者数は延べ1600人にのぼる。
そんな「ストアカ」で定年後の“生きがい”を見つけたという豊住先生に、開講当初のエピソードや生徒さんとの思い出、教える活動の喜びなど、お話を伺いました。(取材日:2022年3月15日)
会社員時代に培ったスキルを一般の人にも役立てたい
ー 教える活動をはじめたきっかけを教えてください
私は元々は大手外食産業に30年間勤務していた企業人でした。飲食業と言っても業務内容は幅広く、私は設備管理や営業などの部署におりまして、その業務のなかの一つとして社内スタッフに「切れる包丁の研ぎ方」を指導していました。延べ500人くらいのスタッフに包丁研ぎを教えていたんじゃないでしょうか。
講師となったのは定年退職後、きっかけはストアカなんですよ。
2013年にテレビ番組でストアカが紹介されていたのをたまたま見て、趣味としてカメラ講座に参加したのがストアカとの出会いです。
そして、ストアカで先生を募集していると聞き、『先生になるためのワークショップ』に参加しました。
ワークショップには10人くらい先生になりたい人が集まっていて、自分の企画を発表しました。パソコンや英会話などの企画が多い中で、僕が発表したのは「包丁研ぎ」。参加したほとんどの人に「危ない!」って猛反対されたんですが、その場にいたストアカの藤本社長だけが「面白そうですね!」と言ってくれましたよ。
ーなぜ包丁研ぎを講座にしようと考えられたのですか?
定年してから町内会の仕出しの手伝いに参加することがありました。その時に、ご近所の奥様たちが切れない包丁を使って料理をしていたので僕が研いであげたんです。そしたらすごく喜ばれましてね。「一般の主婦の方たちはこんなに切れない包丁で料理をしているのか。だったら私の包丁研ぎのスキルでも喜んでもらえるかもしれない」と感じたことがきっかけですね。
自分の持つ技術が求められ喜ばれる。教える活動が新たな生きがいに
ー第1回目の講座を募集したときのお気持ちは覚えていらっしゃいますか?
そうですね、実際に世の中にどれくらいのニーズがあるのか不安だったと記憶しています。プロの料理人に向けた刃物メーカーの包丁研ぎ講座であればたくさんありますが、僕の講座はあくまでも家庭用。無料やボランテイアで開催するのであれば、たくさん来てくださるでしょうが、お金を払って包丁研ぎを習いたい人がいるのかどうか。
初回は結局、ストアカだけを見て参加した人ではなく、僕の過去の仕事仲間とその知り合いの方、小学校時代の地元の同級生が「興味がある」と参加してくれて募集定員4名が満席になりました。
ーその後はいかがでしたか?
2回目以降の募集はレビュー投稿を見て予約してくださる方が出てきて、最初は2週間に1度の開催が、毎週になり、週に2回になりといった感じで徐々に開催日程も受講者も増えていきました。
講座は自宅で開催しているので、だいたい半径4キロ圏内の方が参加されるだろうな、と最初は予測していました。実際にやってみると近隣エリアはもちろん、関東圏全域や、遠い方では北海道から飛行機に乗って参加されるような方もいらっしゃいました。
そして皆さん「こんな講座はここにしかないから」っておっしゃるんですよ。
それを聞いた時に「ニーズがあったなぁ」としみじみ思いましたね。
ー 思い出深い生徒さんはいらっしゃいますか?
岡山から70代の生徒さんが東京までわざわざ足を運んで参加してくださったことがありました。独学で包丁研ぎをされていましたが「なんでこうなるのだろう?」と長年蓄積された疑問が私の講座で一気に解消できたそうです。
「40年間モヤモヤしていたことがスッキリしました!70歳を超えたら時間が勝負。これで安心して天国へ行けます!」と晴れやかにおっしゃったお顔が忘れられないですね。
ー教える活動をしていて良かったと思う瞬間はいつですか ?
生徒さんの顔がぱっと明るく変わる瞬間ですね。
知らないおじさんの家に来るわけですから、みなさん最初はドキドキ不安そうな顔をしていらっしゃいます。でも、自分で包丁を研いで、切れ味の変化を体験した時、一瞬で表情が変わります。包丁を研ぎたい、切りたいと思う顔になる。帰りにはニコニコです。それがもう嬉しくてね。
定年して会社の名刺や肩書きは無くなりましたが、私の持っている技術が世の中に求められている、この年になっても人に喜んでもらえることがある、教える活動は私の生きがいですね。
途切れた伝承と物を大切にする心も講座を通じて伝えていきたい
ー豊住先生にとって「働く」とは?
お客様の満足を追求することでしょうか。
私の講座は二度と受けなくていいように1回2時間の講座で一人で出来るようになるまで教えていて、ストアカで教えた人は1600人を超えています。
そのお一人お一人が講座に求めることは違います。そのニーズのストライクゾーンをいかに狙えるかがとても大切だと考えていて、感性を研ぎ澄まして生徒さんに接しています。
ですので、ストアカのレビューで良い評価をもらえると「やった!」と、いつもガッツポーズをしていますよ。そして「もっと頑張ろう」という活力が湧いてきます。
ー最後に、これから教える活動を始めたい方へメッセージをお願いします
自分ができる事とニーズがある事は違うと思うんですよ。
正直、私も包丁研ぎ講座がここまで求められるとは思っていませんでした。ストアカのワークショップだけではなく周りの友人にも「知らない人に刃物の研ぎ方を教えて、その場で刺されちゃったりしたらどうするの!?」なんて始める前は心配されたりしてね(笑)
まずはやってみないとどこにニーズがあるのかは分かりませんので、トライアンドエラーでやるしかないと思いますよ。
一般の人の生活に密着した内容にフォーカスして、ご自分の経験やスキルを生かして教えられたらどうでしょうか?
退職後、やりたいこと・やらなければならないことが見つからず、しばらくは牙の抜けた虎のようになっていて、妻からも溜め息が漏れることもあったと思います。しかし、この『包丁の研ぎ方講座』が私に自信を取り戻してくれて、第二の人生の生きがいを見つけてくれました。
今では講座がある時は妻も生徒さんをお迎えする用意や受付なども一緒にしてくれていて、夫婦での楽しみも増えたんじゃないでしょうか。
『包丁研ぎ』も昭和の時代は台所に砥石があってお母さんが研いでいたのを見て自然と学んでいました。それが、安価な包丁も出回ってほとんど研ぐ人もいなくなり、伝承も途切れてしまいました。
講座を通じて、若い人たちに包丁研ぎから物を大切にする気持ちを少しでも感じてもらえたら嬉しいですね。
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「自分の持っているスキルでこの年になっても社会のお役に立てるのは嬉しいですね」と朗らかに話されるお顔から、教える活動やストアカを心からお楽しみいただいているのだと感じました。
「どこにニーズがあるのかもやってみなくては分からない」と勇気のでるメッセージもいただきました。
豊住先生、素敵なお話をお聞かせ頂きありがとうございました。
(取材・文 庭野ゆかり)
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