絵が好きな子も苦手な子も、一人ひとりの描き方を尊重・肯定し、楽しく実力を伸ばしていきたいー絵画講師CHIBA YUKIE先生
絵画講師として20年ちかくのキャリアを持ち、地元北海道で活動を行っている自身の絵画教室や小学校の授業での指導、2020年からはストアカのオンラインレッスンで全国の子どもたちに向けて絵の描き方を教えているCHIBA YUKIE先生。
絵画指導のほかにも、学校支援員として発達障害の子どもへのサポートや、ご自身が経験した『不登校児の母』としての講話会など、さまざまな側面で子どもたちの成長に関わる活動をしている先生です。
「上手に描くことより、楽しく描くことを大切にしたい」というポリシーがあるCHIBA先生の絵画教室には、絵が上手になりたい子はもちろん、絵を描くことで気持ちを落ち着けたい子、障がいがある子どもまで多様な子どもたちが参加しています。
インタビュー中「子どもの気持ちを尊重したい」と何度も口にするCHIBA先生。たくさん褒めて伸ばしてくれるとクチコミでも定評があるCHIBA先生の教え方のこだわりや、そこに至るまでのご経験など、さまざまなお話を聞いてきました。(取材日:2023年6月25日)
教え始めたきっかけは子どもの幼稚園行事
ストアカ編集部(以下、ーー)CHIBA先生が教える活動を始めたきっかけを教えてください。絵は子どものころから描いていたのですか?
CHIBA YUKIE先生(以下、CHIBA先生):もともとは、私の父が絵を描く人で、路上販売などもしていました。父は画家というわけではなく、あくまで趣味として絵を描いていましたが、絵が身近にある環境で育ちました。描き方を父から直接習ったことはないのですが、父の影響か、私も絵を描くことが子どものころからすごく好きでした。家ではもちろん、学校の休み時間もずっと絵を描いているような子どもでした。
大人になってからも絵を描くことが好きで絵画教室に通っていたのですが、子どもを連れて行くことができる趣味のサークル的な教室でした。自由に描いて、たまにサークルの先生に見ていただき、徐々に作品を増やして地元の公募展に参加して技術を向上させていました。
私がなぜ、活動を始めることになったかというと、きっかけは長女の幼稚園の運動会でした。幼稚園の運動会の準備で保護者が集まって旗づくりをすることがあり、私は絵を描くことが好きなので一生懸命描いていたんですね。その時、その様子を見ていたお母さん方が「すごいね」「教えて欲しいね」と言ってくださって。
市内で絵画教室を行っていた先生が居たのですが その先生がお辞めになってしまい「後任に」と声を掛けて頂いた事があったのですが 「出来ません」 とお断りしていたのです。
再度幼稚園の保護者の方に 「自宅に先生を招いて、近所の子どもたちを集めて教室を主催してください」、と改めて私に声をかけてくださったのです。
ーー先生のお子さんの幼稚園がきっかけだったんですね。
CHIBA先生:でも、いままで絵を教えた経験もなかったので「教えたことがないので、できないです」と、最初はずっとお断りしていました。
それでも、何度も声をかけてくださったのです。
そのようななかで月日が進み、夫と離婚することになったんです。
まだ、末っ子の次女が1歳になって間もない頃のことです。
それで、心機一転、新しいことに挑戦したい気持ちが湧いてきて、勇気を出して絵画指導を引き受けてみることにしました。
でも、その教室は始まって2年後に声を掛けて下さった方が引っ越しすることになり、そこで「思い切って自分で頑張ってみよう」と思い、絵画教室として利用できる場所を借り、教室を立ち上げました。気が付いたらそれから15年以上経っていました。それが、ありがたいことに現在も続いている私の絵画教室です。
発達障害の子どものサポートや小学校で絵の指導を経験
ーー小学校の授業でも絵を教えていらっしゃるとお聞きしました。
CHIBA先生:長女が小学5年生のときに担任の先生から「絵画の指導に来て欲しい」とお声をかけて頂いたのがきっかけで、それから徐々に広がっていった感じです。
最初は娘のクラスを教えていて、そこから他のクラスや学年に広がり、そして先生方が転勤されていくと、その転勤先の学校でもお声を掛けていただき教えに行く…こんな形で教える学校が増え、現在でもたくさんの児童に関わる機会をいただいています。
ーー絵の指導のほかに、学校支援員のご経験もあるのですね。支援員とはどういう役割なのですか?
CHIBA先生:学校支援員というのは、おもに発達障害がある子をサポートするのが役割です。クラス全体の勉強を指導するのは教師ですが、支援員は発達障害がある子に個別について、その子の困りごとをサポートしつつ、 担当の学年全体も把握して学校運営がスムーズに動くことのできるように支援する役割です。
支援員を始めたきっかけは、絵画指導の授業があるたびに小まめに小学校と自宅を行き来することが増えて、「こんなに小刻みに行き来するなら、スタッフになって常に学校にいたほうがいいのでは」と思って、支援員という立場の仕事も増やしたんです。それで、絵画の指導とは別の時間に、学校支援員として8年間勤めました。
その8年の間にさまざまなお子さんと関わり、私自身もたくさんの経験をさせてもらいました。また、発達障害について学ぶ機会も多くあり、障害についての理解とともに、その知識や経験が現在の絵画の指導にも活かされていると感じています。
絵が好きな子も苦手な子も、楽しく描くことを大切に
ーーストアカで教えることになったきっかけを教えてください
CHIBA先生:私が主宰する北海道の対面教室は児童館を借りて開催していたのですが、コロナ禍で児童館が使えなくなり、一時活動をすることが出来ませんでした。最初は、レッスンをオンラインで行うことは頭には無く、自分でプリントを作って生徒さんの自宅へ郵送するなどして急場を凌いでいました。
ですが、コロナウイルスの影響が長引いて対面教室の再開の目処も立たなかったので、レッスンをオンラインに移行することにしました。
オンラインレッスンをせっかく取り入れたので、「オンラインでしかできない、何か新しいことができないかな」と考えてインターネットで検索したときにストアカを知りました。
オンラインで習いごとができるサービスは他にもいろいろとあったのですが、そのなかでもストアカが一番クチコミなどの評判もよかったので。ストアカでも教室を開いてみることにしたのが2020年です。
ーーストアカの講座にはどのような生徒さんが参加されていますか?
CHIBA先生:久しぶりに絵画と触れ合う方や、楽しく自分のペースで絵を描きたい方、未就学児から中学生までの子どもを教えているのですが、小学生が一番多いです。もともと絵を描くことがすごく好きな子もいれば、苦手な子も参加してくれています。
また、発達障害がある子や不登校中の子も通ってくれているのが、私の講座の一つの特徴かもしれませんね。
ほかにも、大人しい性格の子が、打ち明けにくい学校でのストレスを私の講座で好きな絵を描くことで解消してくれているような姿も見受けられます。
大勢の人がいると疲れてしまうタイプのお子さんは、自宅などのリラックスできる静かな環境で受講することによって本人にとっても自由に楽しく絵を描けるのかなと思います。
ーーマンツーマンでの指導もされているんですね。子ども向けの絵画教室では、マンツーマンで教えてくれる教室はあまりないと思います。
CHIBA先生:そうですね、複数名を同時に教えるグループレッスンとマンツーマンでは進め方が全く違いますので、用途にあわせてどちらも用意しています。
まず、テーマとカリキュラムがしっかりと決まっている講座はグループレッスンにしています。「線の引き方」や「水彩絵の具を使ってみましょう」など、ほかには幼児向けの「親子お絵描き教室」もグループレッスンでご用意しています。
マンツーマンレッスンの場合は、生徒さん一人ひとりの「描きたいもの」を一緒に完成させていく講座です。1時間のレッスン時間で、その子の描きたいものをその子のペースに合わせて描いていきます。コンクール画にしても、子ども一人ひとり描きたい絵は違いますので、描きたいものがある場合は、個人レッスンがいいと思っています。
なぜなら、子どもは自分の絵を描いていても、ほかの子の会話が耳に入ってくると、そっちに気持ちを持っていかれてしまうことがあるからです。
例えば、楽しい絵を描いているはずの子が、隣では山火事注意の絵を描いている子がいると、いつの間にか楽しい絵の中に炎が出てきてしまったりとか、そんな風に絵に影響が出てくることもあります。オンラインでも対面でも同じようなことが起こるので、 気持ちが引っ張られるというか、周りの会話に影響を受けることがあるんですね。
また、塗り方についても、 筆の進め方についても、その子に合わせて一つひとつのアドバイスができるのもマンツーレッスンならではですね。
ーーコンクールに挑戦する生徒さんも多いのですか?
CHIBA先生:ストアカで出会った生徒さんたちもコンクールに挑戦してくれる子が多いです。受講後に学校や地元のコンクールで入賞したり、学校代表に選ばれたりと報告をいただくことも結構あって。そういう報告をいただくと、私もとても嬉しいです。
この5月に、北星鉛筆さんが主催する全国コンクールがあって、対面教室の生徒さんやオンラインの生徒さん、それに大人も参加できるので私も描いて、何名かで参加しました。
つい先日、そのコンクールの1次審査発表が公式サイトであったのですが、なんとストアカの講座を受けた生徒が2名、1次審査を通過したんです!
全国コンクールで結果を残すことは、とても狭き門で「絵がうまい」だけでは通らないんです。そこに気持ちが入って作品に表現できないと、なかなか通るものではないので、驚きと同時にとても感動しました。
発達障害の特性と保護者にも寄り添って
ーー発達障害があるお子さんもマンツーマンの個人レッスンなのですか?
CHIBA先生:CHIBA先生:そうですね、発達障害があるお子さんは、オンラインレッスンだけではなく対面教室の場合も個人レッスンにしています。お子さん一人ひとりの特性に合わせてレッスンができますし、コンディションの良し悪しが日によって大きいお子さんもいらっしゃいますので。
過去には、最初から泣いて取り組めない子や、画面になかなか出てきてくれない子もいました。絵の具をぐちゃぐちゃにしてしまったり、どうしていいのか分からなくて困り果てるお母さんもいらっしゃいました。
ーー保護者の方のご相談にのることも多いのですか?
CHIBA先生:CHIBA先生:障がいの診断が出ているお子さんの場合は、お母さんがお子さんの特性をよく分かっていらっしゃって、そのサポートとして絵画教室を申し込みされるケースがほとんどです。
お母さんとの予約のやり取りの段階で、「自閉スペクトラム症があって」「グレーゾーンで」など、診断を共有していただいたり、お母さんとも連携しながら進めています。また、どうしてもお子さんのコンディションが悪い場合は直前でも日程を変えたりなど臨機応変に行っています。
これまで発達障害があるお子さんの支援に携わり、絵画の指導は多く経験していますが、私は特別な免許や資格を有しているわけではないので診断などはできません。でも、楽しく絵を描くことを通じて、障害があるお子さんとお母さんをサポートできたらと思っています。
加えて、私自身の経験として、私の長女が中学2年生のときに不登校になってから不登校にまつわる講話活動なども絵画教室とは別に力を入れています。ですので、不登校児の親御さんには、同じ経験者としてお話をしたり相談に乗ったりしたこともあります。
描き方やこだわり、その子のすべてを尊重し、たくさん褒めてあげたい
ーー先生が子どもたちに絵を教える中で一番大切にしていることは何ですか?
CHIBA先生:相手を尊重することですね。その子の描き方や、こだわりなどをまずは尊重することを一番大切にしています。
そして、「してはいけない」などの否定はしないこと。それは「肯定する」ということにつながります。
レッスンのときに「まずは大まかに全体を描きましょう」と言っても、 大まかに描けない子が居て、どうしても端々の細かなところからしか描けない子に対して「それはしてはいけない」とは言わずに、 その描き方を尊重して「あなたはあなたの描き方で進めていこう」と肯定することです。
それは、正していくときも同じです。例えば、筆は同じ方向で横に滑らせて使うものなのですが、筆を乱暴に扱ってしまう子もいるんですね。
それを「そんな風にしてはいけません」と伝えるのではなく、「 筆が痛いと言っているよ」と伝えるようにしています。言葉で伝わりにくい子には、 字や絵にして描き示して視覚で伝えることもあります。
どんなに相手が小さなお子さんでも、上手く言葉を変えて、相手を尊重したいという想いをいつも持っていたいですね。
ーー言葉かけがすごく大切なんですね。ほかにもありますか?
CHIBA先生:あとは、子ども自身に決めさせることでしょうか。
指導をするときも「 こう書くともっと素敵になるよ。 どうする?描く?」と、取り入れるかどうかは相手に決めてもらうということですね。
また、1時間のレッスンとなると子どもが疲れてくることもありますが、その場合も「やる・やらない」を子どもに聞いて、「今日はもう疲れた」と言えば、また次回にしますし、本人が「頑張りたい」と言うと「 もう少し頑張りましょう」と伴走します。そして、良いところや 一生懸命頑張ってることは、たくさん褒めるに限ると思います。
ーー 絵が苦手なお子さんの参加も多いとお聞きしましたが、指導の工夫などはあるのでしょうか?
CHIBA先生:絵が苦手な子には、まずは好きに書いてもらっています。 そして、たくさん褒めています。「あなたの描き方は間違いではないよ」と、たくさんたくさん褒めてあげるんですね。そして、たくさん褒められると子どもは絵を描くことが好きになっていくんです。
その様子を隣で見ていたお母さんがすごく驚いてらっしゃったこともありますね。
その子は、一度仕上げた絵を、さらにどんどん塗り潰していって、何回も何回も色を重ねてしまうんですけど、 それを「すごいね」と褒めていたら、 「私はいつも、それはダメだって言っていたんです」とお母さんが。
ーー集中できなかったり、取り組みができない子にはどうされていますか?
CHIBA先生:そうですね、「絵を描く時間が座ってられないんです」 という方もいらっしゃいますね。 その場合は、「無理に座らなくてもいいですよ」と伝えて、声をかけながら、その子に合わせて休憩を入れて、また戻ってきたら集中スイッチを入れて、少しずつ様子をみながら進めています。
そして、集中スイッチが入った時には、あえて声をかけず静かに描いてもらっています。声をかけないほうがいいタイミングもありますので。 長い時だったら20分ぐらい私が声をかけないこともありますので、隣で見ているお母さんが静かすぎて心配していることもあるくらいです。
やはり様子を見ながら、その子に合わせて進めていけるのがマンツーマンの良いところですね。
子どもが自分で選び、楽しく描くことが一番大切
ーー今回サマーキッズプログラムで「絵日記の描き方」で参画いただきますが、この講座を教えていく中で大切されているポイントなどはありますか?CHIBA先生:やはり、子ども自身に選ばせることでしょうか。
夏の絵日記の題材で、例えば 旅行の想い出を描くとしても、 どこを切り取るかというのは一人ひとり違いますよね。どのシーンを描くのかを親が決めるのではなくて、子どもが一番印象に残ったもの、描きたいシーンを選んでもらうことによって、イメージが広がって文章も絵もイキイキとした素敵な作品になるのではないでしょうか。
ですので、やはり私は、お子さんが決めて、 お子さんが選ぶということがとっても大事なことではないかなと思っています。
絵日記のコンクールでも同じで、その子が一番興味のあるものが一番楽しい魅力的な作品に仕上がっていくと思います。
絵日記の描き方講座のなかでは、楽しかったことをしっかりと表現して残していくことを教えていきたいと考えています。子どもたちが楽しく描いている姿を見ると、私もとても嬉しく楽しい気持ちになります。
ーー最近ではプログラミングやチャットGPTなどもあり、このAI時代に何を習わしたらいいのか不安だという保護者さんもいらっしゃいますが、先生はどうお考えですか?
CHIBA先生:何を始めるにしても、子どもの意見を尊重することでしょうか。親御さんが干渉しすぎない部分は絶対にあったほうがいいと思っています。
初めから「こうしなさい」「何をしたらダメ」 ではなくて、子どもが自分でやってみないと分からないことは、たくさんあると思います。ですので、まずは子どもにやらせてみて、親は見守って、 難しいところは大人が伝えてサポートすることが大事なのではないかと私は思います。
ーー最後に、日々子育てを頑張る保護者の方にメッセージをお願いします。CHIBA先生:保護者の方からのお悩みで「子どもとの会話がない」という話を聞くことが多いのですが、会話がないときは「何が間違ってるのか」「どこで間違えたのか」と深く考えてしまうのはやめたほうがいいと思います。
私も自分の子育てで、子どもと一緒に落ちていきそうになったこともあります。子どもが会話もせず、学校にも行けなくなり、うつ状態になったとき、私自身も子どもと同じようになりかけました。そんなときに何をしたかというと、いつもと変わらない日常生活を送りました。
家中がすごく暗い雰囲気だったんですが、まずは温かいご飯を食べて、そしてテレビをつける。すると、テレビから笑い声が聞こえてくるんですね。それだけで、家の中がすごく明るくなったんです。ですので、困ったときや困難にぶつかったときほど、日常をきちんと過ごしていただきたいということを保護者の方にお伝えしたいですね。
私も3人子どもがいて、一番下の子も大学生になり子育てもだいぶ落ち着いてきました。中2のときに不登校になった長女も高校を通信で卒業したあと、東京の美術の専門学校に進み、現在は絵の仕事を少しづつしています。
わが家にも困難な時期がありました。でも、「困った」だけで止まってしまうのではなく「そこからどうするんだ」と立ち上がることがすごく大事だと実感しています。
絵画の先生として、生徒の子どもたちをたくさん褒めているのは、もしかしたら「自分の子育てでやりきれなかったことをしているのかもしれない」と思うときもあります。それも加えて、自分自身が経験してきたことを絵画教室を通じて伝えていきたいと思っています。
ーー素敵なお話をありがとうございました。
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