学びの翼で陸と空をつなげていく~ANA Study Flyさま|主催団体インタビュー
『ANA Study Fly』は、客室乗務員やパイロット、整備士や総合職など、幅広い分野で活躍する現役ANAグループ社員が講師となり、オンライン・対面講座を通じてさまざまなスキルをお客様にシェアする取り組みです。
この取り組みが誕生したのは、ANAグループの社内社員提案制度からです。2020年以降、コロナ禍で飛行機の運航が大幅に減少したという未曾有の危機に直面する中で、4人の客室乗務員が「個々のスキルを活かして地上でも輝ける場をつくれないか」という想いを抱き、プロジェクトがスタートしました。
ストアカの活用は、社内提案制度に基づいた実証実験から始まりました。わずか6週間の検証期間にて、ストアカでの講座開催により、お客様からのニーズがあることが証明でき、プロジェクトの発展に大きな役割を果たしたとのことです。
社内社員提案制度の最終選考を経て、2022年11月に本格始動した『ANA Study Fly』。現在では、180名を超えるANAグループ社員が講師として登録し、副業という位置づけでオフタイムを活用しながら、自分らしく教える活動を行っています。
本プロジェクトが本格的にスタートし、丸2年が経過しました。今回はプロジェクトの誕生秘話、ストアカを選んだ理由やメリット、180名を超える登録講師と日々多様な講座を運営する体制について、ANA Study Flyのプロジェクトリーダーである渡海さま、運営事務局の榎本さまに、今後の展望も含めてたっぷりとお話を伺いました。(取材日:2024年10月28日)
客室乗務員の新たな活躍の場を広げる~ANAの挑戦
ストアカ編集部(以下、――): ストアカを導入したご経緯からお聞きしたいのですが、そもそも『ANA Study Fly』はどのような目的でスタートしたのでしょうか?
ANA Study Fly 渡海さま(以下、渡海): ANA Study Flyのプロジェクト自体の歴史で言いますと、コロナ禍で飛行機の運航が大幅に減少した時期があり、私たち客室乗務員は「空のCA(キャビンアテンダント)だけでなく、"陸のCA"として何か活躍できることがないか」という想いから、本プロジェクトが始まりました。
そして、何ができるかと考えた時に、CAは日常業務のサービス向上や自身のスキルアップのために、さまざまな資格やスキルを身に付けている社員が多くいるので、「そのスキルを活かす場をつくる」という発想が生まれました。
CAたちの陸上でのスキルの活かし方については、それぞれのタレント(個々の能力)に注目することがポイントだと考えました。その結果、個々のスキルを気軽にシェアできるオンラインスキルシェアのプラットフォームが適しているのではないかと思い、いくつかのプラットフォームを調べました。
そのなかで、以前から海外乗務のCAが『ANA CA TOWN』という主催団体名でストアカで語学レッスンを提供していたことが印象的だったため、社内での導入実績もあるストアカを私たちも利用することにしました。
――: ANA Study Flyのプロジェクトの始動に際し、社内提案制度を活用されたとお聞きしました。
渡海: そうですね。ANAグループには2021年度から始まった「Da Vinci Camp」という社員提案制度があり、社員全員から新規事業の種を集めるという取り組みになります。さまざまな分野から多様な事業案が集まり、審査されるというものです。
その制度に、コロナ禍で「将来性がある大切な人材を活かさないのはもったいない」「新たなビジネスができるのではないか」という想いから、私たちも一つの案として提案を出したことが本プロジェクトの起因となっています。
その提案が一時選考を通過した後、2022年2月にストアカで実証実験をスタートしました。その後、二次審査があり、最終選考が4月に行われましたが、最終選考を通過できたのは、おそらく2月から3月にかけての実証実験の結果があったからだと思っています。
――: 実証実験の段階からストアカを導入されていたのですね。
渡海: そうですね。当時はまだプロジェクト化しておらず、「社員提案制度」にこの企画を提案するにあたって、実証実験の結果をもって臨みたいと考えていました。
実証実験が必須ではないにしても、社員提案制度を通過するには、「お客様のニーズがあるか」「実際にお金を払ってくださる方がいるか」など、仮説検証が大事だと考えていたからです。
そこでストアカの方に相談し、実際に講座を開催する準備に入りました。まず、8名のCAが講師として登録しました。そして、ストアカの担当の方が勉強会を開いてくださり、ワークショップを開催するにあたってストアカの特徴などを丁寧に説明いただいたことで理解も深まり、スムーズに講座開催のスタートダッシュを切ることができました。
6週間の実証実験を行い、スピーディに結果を提出できたのは本当に大きかったと思います。それがなければ、おそらく社員提案制度の通過は難しかっただろうとも言われています。
ストアカでは、実証実験でも一般のお客様から実際にお金をいただけるシステムが整っている点も魅力の一つだと感じています。また、1日にいくつも講座を出せばお客様が購入してくれるという点なども、「お客様がいるかどうか」が分かる重要なポイントでした。
たとえ大きな額ではなかったとしても、そこにニーズがあり、お金を払ってもらえるというのはとても大切なことだと感じています。そういった実証結果をストアカで得られたことは、本当にありがたかったですね。
ANAブランドのもと、個人の時間とスキルを活かし、全員が活躍できる仕組みを
――:2022年11月から本格始動されたとのことですが、現在展開されている講座や、講師として活躍されている方について教えてください。
ANA Study Fly 榎本さま(以下、榎本): 現在、185名のANAグループ社員が講師として登録しています。職種はCAを中心に、パイロット、整備士、総合職など多岐にわたり、オンラインと対面でそれぞれの専門分野や得意を活かしたスキルを提供しています。
講座内容は、英会話や接客スキルからキャリアカウンセリング、ワイン講座、ヨガ、フィットネス、書道、ビジネススキル、料理や相続まで、多岐にわたるテーマです。毎月20種類以上の新規講座が追加され、現在は150以上の講座を提供しています。
――:180名を超える社員が講師登録されているとのことですが、講座の運営はどのような体制を取られているのでしょうか?
榎本: 講師活動は「副業」として位置づけ、会社へ申請を出した上で「個人事業主」として兼業形式で行っています。
導入にあたって、私たちタレントマネジメント事務局が講師の公募を行い、「Study Flyでマルチキャリアに挑戦したい方」を募集しました。応募者には「どのスキルで、どのジャンルを、何のために教えたいか」を面接で確認し、”想いに、翼を。学びに、翼を。”というANA Study Flyのコンセプトやミッションバリューに共感いただける方に講師登録をお願いしています。
その後、希望するチームに所属していただくか、個人で講座を作りたい方には各自で進めてもらいます。講座プロフィールも基本的に各講師が主体的に作成しますが、サムネイルや見た目、ANAブランドに関するチェック、コンテンツの確認は事務局で担っています。こうして、皆が活躍できる仕組みを整えています。
――:講師登録された社員の方は、もともと教える活動の経験があった方なのでしょうか?
渡海: ほぼゼロですね。「一人では難しいけれど、チームなら挑戦してみたい」「ANAブランドの向上に貢献できるならやりがいがある」といった理由で多くの社員が応募してくれましたが、全員が初めての挑戦です。それでもレビュー評価が非常に高いのが私たちの自慢なんですよ。
私たちのコンセプトは「学びのジャーニー」です。専門家が厳格に教えるのではなく、まるで旅をするように、興味があることを気軽に学んでもらえるのがANA Study Flyの良さではないかと思っています。そして、その親しみやすさがストアカの世界観ととてもマッチしているのではないでしょうか。
――:講座はどのような場所で行われていますか?
榎本: オンライン講座は講師の自宅から行い、業務がオフの日に開催する形式です。個人が自由に開催できる点はストアカの魅力ですね。また、対面講座は『ANA Blue Base』というANAグループの総合トレーニングセンターで行うことが多いです。ここは日本最大級の訓練施設としても知られていて、参加者からも「こんな施設が見れるとは思いませんでした」と感激の声をいただくこともありますので、ぜひお越しいただきたいですね。
――:これまでで印象に残る生徒とのエピソードなどはございますか?
渡海: このプロジェクトは、社員が自分の「好き」や「得意」を活かす場を提供するとともに、マルチキャリアの準備にもつながる大事な取り組みだと思っています。
コロナ禍ではキャリアへの不安が高まりましたが、育児や介護などライフステージが変化する中で同じような不安を抱えることもあります。そんな時に、自分の「好き」や「得意」で教える力を持っていること、そして複数のキャリアに挑戦できる場があることは、社員にとっても大きな意義があると感じています。
たとえば、英会話の講座を受けたお子様が「先生に会いたいから飛行機に乗りたい」と言ってくださることがあります。「講座では『先生』、機内では『CAさん』」と呼んでいただけることで、二つの役割を自然に受け入れてもらえるのは非常に嬉しいことですね。
「次は飛行機でお会いしましょう」と言ってくださる生徒さまも多く、陸のCAと空のCA、この2つが繋がったと感じています。
また、今年2月にイベントを開催した際には、その後、ニューヨーク便で英会話講師を担当していたCAとお客様が再会したことがありました。当社のCAが8000人いる中で再びお会いできるのはすごく稀で、貴重な体験だったと思います。講師としてのCAが増えることで、こうした再会の機会がさらに増えていくのではないかと期待しています。
運営に安心を、講師にやりがいを。安心安全を最優先に考えたプラットフォームの仕組み
――:ストアカを利用して良かった点について教えてください。
榎本:運営事務局を担う私が感じている最大のメリットは、UI(ユーザーインターフェース)の使いやすさです。実際、5つほどプラットフォームを試しましたが、ストアカは使いやすさの面で圧倒的に優れていると感じています。
特に、URLの共有が簡単で、メッセージ機能が講師にとって非常に使いやすく設計されている点が魅力です。
また、レビュー機能があることで講師のモチベーションも上がりやすい点がストアカの大きな強みではないでしょうか。生徒ユーザーがレビューを書きやすいシステムが整っている点も、支持したいポイントですね。
――:多くの講座や講師の登録がありますが、管理機能についてはいかがでしょうか?
榎本:主催メンバーとして、講師に安心してIDを渡せる点も大変優れていると思います。理由として、銀行口座情報にはオーナー権限を持つ事務局のみがアクセスできるからです。
重要な部分には事務局のみがアクセスできる一方で、主催メンバーである講師たちは講座内容やプロフィールなどを自由に編集できます。この仕組みにより、事務局としての運営も効率化され、講師が個々のキャラクターを活かして主体的に活動できるのがとても良いと感じています。
また、講師とお客様はストアカのメッセージ機能でやり取りが可能で、メールのやり取りと違い、他の講師や事務局も内容を確認できるため、講師とお客様の間で安全なコミュニケーションが保たれます。
この「見える化」の仕組みは、講師を守る面でも非常に役立っているのではないでしょうか。
さらに、事務局側もマイページから全体の把握が容易で、「どの講師が、いつどこで講座を開催しているか」を簡単に確認できます。講師が100名を超え、月に200~300回の講座が行われる中、この点は非常に助かっています。
――:講師視点での使い勝手はいかがでしょうか?
渡海:そうですね、講師から新しい提案や要望が出てきた際、ストアカではそのほとんどが叶えられるよう設計されていると感じています。
事務局を通さずに、講師自身が直接お客様とメッセージ機能で連絡を取り、日程調整や開催リクエストに対応できるのは非常に便利ですね。
講師にある程度の自由度が与えられていることが、やりがいにもつながっているのではないでしょうか。
――:集客についてもお聞かせください。『ANA Study Fly』としてリーチしたい層やターゲット層があったのでしょうか?また、それは達成できましたか?
渡海:もともと「より多くの講師が活躍できる場をつくりたい」という考えがあり、ターゲット層も講師ごとに異なっています。
たとえば、キッズ英会話は子ども向けですし、ゴルフ講座は年配層が中心だったりと、講座ごとに異なるターゲット層を想定しています。こうした幅広い層に対応できる点で、ストアカは非常に適していると感じています。
他のプラットフォームでは、見放題プランがメインだとビジネスパーソンが中心になりがちだったり、お子様向けのプラットフォームでは子どもだけが対象になるため、すべての講師が輝くのは難しいこともあります。
すべての講師がデビューするためには、幅広い層のお客様がいるストアカでないと難しい部分がありました。
ターゲットを広く持てないと、講師によって売れる・売れないがはっきりしてしまうため、全員が活躍できる環境をつくるにはストアカが最適だと思っています。
――:社員の方が副業という位置づけで教える活動を行うことで、本業にも活かされている点はございますか?
渡海:副業で得た経験が本業にも活かされていると感じています。特にCAはお客様と直接接する仕事ですので、教える活動を通じて学んだコミュニケーションスキルが現場でも役立っているのではないかと思います。
もともと資格取得への意欲も、「お客様に提供できるサービスを向上させたい」という気持ちからくるものが多いんです。たとえば、英会話や外国語、ワインソムリエの資格を取得するのも、接客の質を高め、お客様に楽しんでいただくためです。教える活動を通じてチーズソムリエを追加で取得するなど、現業にも確実に活かされていると感じています。
また、「先生として教えること」を試してみたい気持ちがあっても、かつては副業が難しい時代がありましたが、今はオフタイムを活用して活動ができるため、むしろ本業へのエンゲージメントが高まっていると感じます。活躍の場をサポートしてくれる会社の下で、「好き」と「得意」を活かす場所があることが本業への意欲にもつながっているのではないでしょうか。
――:講座参加や教える活動を通して、ANAのサービス全体への理解や興味に変化がありましたか?
渡海:この活動を通して、私たちのコンセプトに共感してくださる企業様が増えていると感じています。
私もANA Study Flyの代表として、「社員が活躍できる場づくり」について組織開発やセミナーなどで登壇する機会が増えており、社員が教えることで組織が活性化し、キャリア支援やキャリアオーナーシップを促進する取り組みとしても注目されています。
「社員が自由に挑戦できる企業文化が素晴らしい」と評価いただくことも多く、ブランド価値が向上している手ごたえを感じています。
また、講座を受講されたお客様からも「次の搭乗もANAを利用したい」というお声をいただく機会が増え、この活動全体がANAのブランドイメージ向上にも寄与しているのではないかと思います。
「教えることは学ぶこと」。社員のやりがいが、お客様の笑顔へつながっていく
――:今後の展望をお聞かせください。
榎本:まずは対面講座をさらに増やしていくこと、そして年に1〜2回の大型イベントを開催して、より多くのお客様に楽しんでいただける場を提供したいと考えています。
また、「講師として参加したい」という声が空港職員の間でも上がっており、講師の幅も全国に広げたいという目標もあります。今後、登録講師数を直近では300名、将来的には1,000名まで増やせたらと思っています。
さらに、現在は羽田のみですが、地方空港での開催も視野に入れていきたいですね。例えば、セントレア(中部国際空港)などにも教える活動に興味がある職員が多いと聞いておりますので、実現に向けて検討を進めていきたいと考えています。
また、受講者様からの声も積極的に受け、「こんな講座があれば」といったご要望にも応えたいと考えています。自由に旅行を楽しめるようになりましたので、旅の準備講座など、旅行に役立つ内容も提供していきたいですね。今後のANA Study Flyの活動にぜひご期待ください。
――:最後に、これから導入を検討している企業や団体の方へ、メッセージをお願いします。
渡海:教えることは学ぶことにもつながっていると実感しています。
人に教えることで学びたい意欲が格段に高まり、単なるインプットやリスキリング以上に、教えることによるリスキリング効果の方が圧倒的に高いと感じています。
このような機会を社員に提供することで社員の成長にもつながり、本人たちも非常に意義を感じているようです。自分のためだけの学び以上に、お客様に喜んでいただけることが、社員にとってのやりがいとなっています。
現在の社会において、誰もが教える立場になることは非常に価値があると思います。ストアカを活用することで、社員が日常的に身につけた知識やスキルが外部に提供でき、お客様に喜ばれる仕組みが実現しました。
今後、教える活動の導入を検討されている企業様にとっても、こうした新たな価値創造を実現できるのではないかと考えております。